森金融庁長官の続投で金融行政がどうなるかといったことはさておき、今年の定期人事異動のポイント、注目点を整理してみました。親元の財務省の人事は動いていますし、ほかの省庁でも大きな異動がありました。経産省は大幅な異動がありました。それと比べていかにも少ない感じです。渋滞人事でした。
◎主要局長も3年、4年目に突入
金融庁は7月上旬に、今年の定期人事異動を発令しました。このコラムでも書きましたが、森信親長官(昭和55年大蔵省入省)が留任し、3年目に入ります。しかも、主要局長も全員留任するという異常人事となりました。池田唯一総務企画局長(57年)はなんと4年目となります。金融庁発足以来の最長の任期となります。これまで3年間務めた総務企画局長は三國谷氏と森本氏の二人。多くが1年、あるいは2年で異動しています。
また、遠藤俊英監督局長(57年)も3年、三井秀範検査局長(58年)も3年目に突入しました。これまで監督局長を3年務めた方は佐藤隆文氏と細溝清史氏の二人だけです。検査局長の3年間は過去に西原政雄氏が一人だけです。したがって、3年というのは特例、異常事態なのです。
なお、長官以下3人の主要局長が留任したのは、平成18年、24年、そして昨年に次ぐものです。こうした渋滞人事は長官が3年目に入ったときに起きている現象です。長官が続投するということはそれだけ行政の方針変更を決める重要な時期ということになります。ただ、局長クラスの留任は辞職するタイミングを失するというデメリットがあります。また、来年の異動が大幅になるという要因になります。金融庁は来年、大幅な組織変更を予定しています。予算の概算要求に入れるため、8月末までにその原案を示すべく検討していると聞いていますが、相当遅れているとも聞いています。
なお、人事に関係しているのかどうか判然としませんが、毎年、公表している「金融レポート」(金融庁の重点施策の評価)がいまだに出ていません。人事異動の前に出すと聞いていましたので、何らかのトラブルがあったのかもしれません。局長が全員留任なので遅れても問題はないと判断したのかもしれません。あるいは、各局でまとめたものが昨年と同様に森長官のところで止まって、そのままになっている可能性もあります。昨年は森長官が意に沿わないということですべて書き直しといわれています。ことしも真筆ということになるかもしれません。このとりまとめの責任者は総括審議官です。
◎驚きのスワップ人事
局長の留任が目立ちましたが、それ以上に驚かされたのが、森田宗男氏(60年)と佐々木清隆氏(58年)のスワップ人事です。総括審議官を森田氏から佐々木氏に入れ替え、証券監視委員会事務局長を佐々木氏から森田氏に入れ替えた人事です。正直のところ、森田氏の降格人事と見えます。証券監視委員会事務局長はいわば上がりのポストです。これまでの総括審議官経験者は検査局長になることが多く、ほかにも総務企画局長などに就任しています。これらのポストは次の昇格のポストがありますので、これらの人事と比べやや厳しい感じがします。森長官の信賞必罰の人事ルールが垣間見えた人事です。
一方、総括審議官となった佐々木氏は何か評価された点があったとみるべきでしょう。ただし、58年の入省ですから、氷見野金融国際審議官(準長官クラス)や三井検査局長と同期。来年、次のポストが見えにくい位置にありますが、氷見野審議官の後任の可能性もあります。森長官が今年の仕事をどう評価するかにかかっています。総括審議官はかなり難しいポストです。対外交渉の窓口ですので、永田町の国会議員、政党との関係構築がメインとなります。政策立案だけでなく、対人関係の構築というまったく別次元の能力が求められます。また、税制改正などほかの省庁との交渉の責任者です。前任の森田氏が税制改正で相当苦労しておりましたので、佐々木氏も厳しい事態に直面することが想定されます。とくに今年は組織改正という難問もあり、これをスムースに運ぶということも総括審議官のミッションのひとつとなります。
◎入省年次の逆転
森長官の人事方針には国家への貢献度という評価基準があります。こいつはよくやった(あるいはよくやれそうだ)と思えば、抜擢します。その結果、入省年次の逆転ということが起きやすくなります。その典型として別表に監督局総務課長、銀行1課長、銀行2課長の例を挙げてみます。
監督総務課長に抜擢されたのは堀本善雄氏(平成2年・前検査局総務課長)です。銀行1課長の中村修氏は堀本氏よりも年次が上の平成元年の入省。ですから、通常の人事ならば中村氏が総務課長となります。中村氏は留任です。銀行1課長はメガバンク担当の課長。金融庁のなかでも大きなポストです。年次が下の人が上司になったわけですから、こころ穏やかという訳にはいかないでしょう。年次の序列はキャリアの人たちのいわば心の支えみたいな役割を果たしています。組織へのローヤリティの源泉にもなってきました。その一方で、ポストに胡坐をかく人もいたかもしれません。抜擢はポストに安住させないという鞭にもなります。森長官の意図がそこにあるのでしょう。なお、堀本氏については、元々、森長官が総括審議官のときに、当時、プロモントリーというコンサルティング会社に転出していた堀本氏を探しだし、入庁を勧めたという経緯があります。彼は財務省採用ですが、一度、退職していますので、財務省の年次で比較するのはおかしいのかもしれません。
次が銀行2課長人事。前任の柴田聡氏は平成4年の入省。その後任に平成7年の島崎征夫・前熊本県企画振興部長を大抜擢しました。3年もジャンプしたことになります。島崎氏は熊本の前は金融庁に7年ほど在籍していますが、森長官がNY領事から監督局の総務課長に戻ってきたときの部下でした(監督局総務課信用機構対応室補佐)。ときは、豊和銀行への公的資金の投入、もみじ銀行が山口銀行の傘下に入ったときです。お気に入りかもしれません。長崎県の十八銀行と親和銀行(ふくおかフィナンシャルグループ)の統合問題担当者は現在、西田監督局審議官が担当しています。しかし、島崎氏にバトンタッチするものとみられています。そもそも銀行2課長が地銀担当ですから。むしろ、前任の柴田氏を外していたのが異例だったと思います。島崎氏には熊本での地方行政のキャリアを活かした地銀統合の方策を検討させるのかもしれません。
長崎の地銀統合問題は一度、延期となり、このままでは破談の可能性が出ています。公取は少なくとも地銀側から提出された条件では統合を認めないと思われます。ほかの銀行への債権譲渡策も不発に終わるでしょう。競争状態にあって苦しいから統合を認めてほしいというロジックは金融行政としてはアリですが、独禁政策からはまったく取り上げてもらえません。長崎の統合のきっかけは、基本は人口減少ということだと思いますが、個人的には長崎新幹線というインパクトが動かしている面が強いと思います。ならば、福岡経済圏の拡大なのですから、シェアの考え方もより広く取らえることが可能でしょう。すでにそうした「市場」の定義についても銀行と公取との間で議論も進んでいると期待したいところです。
◎関東財務局長というポスト
今回の人事で金融庁が関東財務局長というポストを得られなかったというのは痛かったのではないか。財務局は財務省の地方支局だが、そのミッションの主体は金融行政。とくに関東財務局はほかの財務局とは別格の扱いになっている。局長の身分(級数が高い)というだけでなく、仕事の中身が違うのです。上場企業などが毎年、あるいは定期的に有価証券報告書を開示することが義務付けられていますが、その書類の提出先は財務局です。企業は有価証券報告書に記載が正しいのか、あるいは間違いがないのかを財務局に相談に行きます。審査という手続きです。東芝問題などこれまで有価証券報告書の記載について、様々な問題が生じましたが、形式上こうした審査手続きは金融庁の開示課が担当しています。実際は財務局が審査をしており、とりわけ、「事前相談」は完全に関東財務局が一手に引き受けています。大企業だろうが、関西の企業だろうが、関東財務局に赴いて相談に乗ってもらうのです。完全に全国組織といえます。開示審査は金融庁の仕事です。しかし、関東財務局が担っているのです。
だからだと思いますが、この10年ほど、関東財務局長は金融庁で仕事していた方が就任するパターンがほぼ定着していました。しかし、今年は浅野氏(58年・前財務省政策評価審議官)が着任しました。浅野氏は金融庁のキャリアはありません。どちらかと言えば国際畑です。審議官の前はアフリカ開発銀行理事、フラン大使館1等書記官・参事官を歴任しています。入省後にフランスのENAに留学していますから、フランス派ということでしょう。なぜ、金融庁がこのポストを手放したのか謎です。
◎来年の長官は誰か
来年の定期人事異動は大幅なものとなるとみられます。森長官は勇退でしょうが、後任の長官に誰が来るのか。2つのシナリオがあります。57年の二人の局長の池田氏、遠藤氏いずれかが昇格、②双方とも勇退して、氷見野良三金融国際審議官(58年)の昇格です。この3人しか対象者はいません。長官人事は森長官の判断がメインだとしても、官邸の意向も反映されます。今現在、意中の人がいたとしても、来年はどうなるかわかりません。最近の安倍政権の求心力の低下もあり、麻生財務大臣・金融担当大臣の発言力が相対的に高くなっていることが人事の力学を変える可能性があります。麻生派の再結成、麻生大臣の露骨な安倍長期政権への批判もあり、場合によっては安倍総理辞任という事態もあるかもしれません。そうなると菅官房長官を頂点とした官僚組織の動かし方が根本から変わります。ちゃぶ台返しです。
全く余計なことですが、官邸の住人が代われば、日銀総裁の人事も変わるでしょう。いまは黒田東彦総裁の続投説が濃いようですが、浅川財務官の登用もあるかもしれません。なにしろ、浅川氏は麻生大臣の秘書官を務め、何かと通じているので、ダークホースでしょう。世に言われているリフレ派の本田悦郎氏はないと思います。マネタリーベースを増やせばCPIは上昇するという考え方が完全に崩れていますから、その理論を主張する方々は総裁にはならないと見ています。
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