森長官が地銀・第2地銀の2017年度決算について、「有価証券運用益を除くコア業務純益、つまり本業の利益が大幅に減少しており、半分の銀行の利益がマイナスになっている」と銀行の収益の低さに警鐘を鳴らしています。ゼロ金利、あるいはマイナス金利という環境下では当然、想定された事態ですが、銀行は収益確保のためにより一層、経費の抑制に動いています。
◎地銀の人件費総額は横ばい、信金は減少
別表は有価証券報告書、全銀協の財務諸表分析、決算短信や日本金融名鑑から作成した人件費に関するデータです。昨年度の分がまだできていないので2015年度が最新となっています。5年分の数字を示しました。こうした財務分析は一般的に人件費率という分母に預金総額、分子に人件費で計算される係数を使いますが、分母の預金の意味が薄れていることから、人件費の絶対額を出して動きを見てみました。
地銀・第2地銀の人件費の総額は5年前と同額です。微妙に凸凹がありますが、不変と言っていいでしょう。これを従業員一人当たりで計算してみますと、5年間の間にたった15万円の増加に過ぎませんでした。年間3万円です。勿論、個人ベースでみれば、増えた人も減った人もいるでしょう。パートの人員が増えていますから、より一層、格差が広がっていることが容易に想像されます。是非はともかく、それはそれで経営判断です。また、銀行間の格差についてはここでは触れませんが、実は広がっています。
人件費は銀行の経営者が判断して分配した経費です。ここに経営のセンスが表れます。なんだかんだと言いながら、経営者は最終的な人件費の総額をコントロールしています。総額を据え置く一方、従業員の数はどうなっているのでしょうか。この5年間に地銀・第2地銀は3000人近く減らしました。つまり、人手を減らして、一人当たり人件費をやや増やしたということです。働く職員のインセンティブを考えれば、当然の経営管理でしょう。
しかし、この先もこうした人件費を維持あるは増やすことが可能でしょうか。ある地銀の経営者から聞いたのですが、このまま金利環境が続くなら、人件費を圧縮するしかないと話していました。貸出先がなく、カードローンも制約され、不動産関連融資への注文があり、さらに投信販売でも販売商品が制約されているなかで、銀行の本業利益がすぐさま増加に転じるとは到底思えません。となれば、経営が考えるのは経費の削減です。システム開発費は共同化で対応しています。店舗展開も抑制しています。支店が入っているビルの空きを賃貸しすることについて、緩和が進みましたが、これも店舗陣容の縮小の結果に過ぎません。
となると最後は人件費の削減です。ではどこまで削減できるのか。ときどき、金融庁の幹部は地銀の信金化という言葉を使います。中身は大口融資ではなく、小口特化ということと面倒見の良さということです。中身はさておき、仮に人件費はどこまで下げられるかというメド、あるいは参考にはなると思います。別表に同様に信用金庫の数字を並べました。一目瞭然。信用金庫業界全体ではこの5年間に300億円減らしています。これは従業員数が大きく減少したことが影響しています。地銀は3000人の減少ですが、信用金庫は6000人も減らしているからです。
ここが、限度額のメルクマールなのですが、一人当たり人件費をみると120万円程度低くなっています。計算上は年間2000億円ほど浮くことになります。あくまで試算です。
◎OHRが100を超える信用金庫
先ほど地銀・第2地銀の本業の利益がマイナスになっていると書きました。これには投信販売などの役務取引が入っていますので、それを除くいわゆる預貸利ザヤでみるとさらに事態は深刻です。2017年度の信用金庫の決算をみると総資金利ザヤがマイナスというところはごろごろしています。まだ全体の係数は手元にありませんが、昨年度に比べ相当、マイナスの信用金庫は増えていると思われます。信用金庫は役務取引の利益が少ないため、この総資金利ザヤのマイナスは相当こたえます。実はOHR(Over
Head
Ratio)が100を超えている金庫がいくつもあるのです。この数値は、営業経費/業務粗利益×100で表されます。メガバンクや大手の地銀の経営計画ではこの水準を40とか50とかに設定していますが、これが100を超えてしまっているのです。営業経費を賄えない経営体質になっているということです。信用金庫の人件費が少ないと指摘しましたが、そうしたギリギリの経営をしても、なお、収益が出ないということを意味しています。
金融機関は構造不況業種に陥っていると言って過言ではありません。日銀の黒田総裁も現在の金融政策が金融システムに影響を与える影響も考慮していると発言しています。おそらく地銀、あるいは信用金庫の経営者の方々もいずれは金利が上昇しイールドが立ってくると考えているでしょう。タイミングはともかく、金利が上昇することは間違いないでしょう。しかし、金利は「何の金利がまた、どのタームがいつ上昇するのか」で金融機関経営に大きな影響が出てきます。たとえば、預金金利が上昇しても貸出金利がすぐに上昇するわけでありません。となると預貸の利ザヤはさらに悪化してしまいます。事態はもっと複雑に動きますが、金利上昇がすぐに経営にとってプラスと単純には言えません。やっかいです。
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