つみたてNISAの運用開始は18年1月。その口座開設の手続きがこの10月から始まる。金融庁がつみたてNISA対象商品を絞り、加えて販売インセンティブを制限したため、「ほとんど売れない」「売る気にならない」と前評判はさっぱり。とはいえ、金融庁はこの商品のための税制改正を実施済み。いまさら売れないとはいえない状況にある。打開策はなにか。
◎商品性の改善を促す
つみたてNISAの商品性は森金融庁長官の思い入れを反映して、顧客(買う側)にとってなるべく損失が発生しないよう配慮が施されています(ここでは、商品性についてはご存知ということを前提にしております)。この配慮のため商品性を決めた春の段階では売れる投信は41本という惨状でした。こんなに少ない投信のなかから何を買えばいいのか、売る金融機関のほうも何を勧めればよいのか戸惑っていました。金融庁はさっそく、こうした声に応える形で事実上の大枠の緩和を施しました。金融機関からの事前に相談のあった商品を精査し、「事前相談の結果」120本の投信とETFを認めました。
金融行政を長年、眺めてきた筆者からみれば異例の対応です。最初の41本を決めた時はある専門家グループを組織して、そのグループの提言という形で商品性を決定しました。しかし、形式的な基準だけを押しつけても売れないものは売れない――当たり前です。そこで、事前に相談に乗るので、もう少し商品に“色”をつけて公表してくださいと商売気たっぷりに販促に乗り出したのです。運用業者もこれに応え、手数料をさらに下げるなど、目いっぱいのディスカウントに応じたようです。「この特売の大根は利益なし、持ち出しで結構。その代りジャガイモでは儲けさせてもらいますよ」ということでしょう。
結果をオーライ。120本もあれば当面はお客様も選び易くなるでしょうし、売るほうも売り方にアクセントを付けられます。ただし、これだけ揃えても、店頭に並べる商品は相当絞りこまれそうです。売る側のセールス・トークがまだ定まっていないからです。顧客のニーズにマッチしなければ、結局、売れません。
金融庁と個人顧客との間のリスクの許容度についての認識ギャップはまだ埋められていないように思います。銀行や証券会社に聞くと、リスクをとったアクティブ運用商品が欲しいという顧客はいても、数%のリターンがあるかどうかのパッシブ運用が“欲しい”という顧客はまだまだ開拓できていないと思います。金融庁もこのあたりのギャップはわかっている様子で、「当面はメガバンクとゆうちょ銀行にお願いするしかない」と割り切っています。
◎個人型確定拠出年金iDeCoとのセット販売も検討中
さて、商品性はアップし、品ぞろえも整いました。でも、それでも食いつきは悪いと関係業者からの声が根強く、金融庁を不安にさせています。そこで金融庁がいま検討しているのが、販促体制の強化。まず、検討の俎上に上せられているのが個人型確定拠出年金イデコ(iDeCo)とのセット販売。個人からみればNISAもイデコも積立投資です。同じように積み立てていくなら、積立の一部を分割してもらい、半分はNISA、半分はイデコとして、職場型推薦商品として売って行こうというプランです。いま、職場NISAが意外と伸びています。それらこれに便乗という発想です。しかし、先ずは先ず隗より始めよ。ターゲットを国家公務員にしようと。ただし、金融庁だけでは1600人しかいないので、防衛省とか国税も入れたい・・・。どこまで販促できるか、まだこれからのことですが、国家公務員はみなつみたてNISAをやっているとなれば、ブームの火となるかもしれません。また、累投なども一緒に推進してもいいかもしれません。
つみたてNISAは20年間の運用ですから、どちらかといえば若者向け、イデコの年金を受け取るのは60歳。さて、あと残る市場といえば、60歳以上の高齢者にどんな商品を提供するか。金融資産を持っている年齢層の金融ニーズといえば、リバースモーゲージなどがありますが、失敗事例が多く、まだ検討中とのことです。
なお、つみたてNISAの販売を大手あるは地銀を主体として考えるのではなく、フィンテック業者に少額の投資を担わせるというアイディアもあります。意外と若者受けするかもしれません。
なお、つみたてNISAへの批判でもっとも声が大きかったのはノーロード限定にした点です。批判の根拠は理解できますし、もっともだと考えています。しかし、ノーロード大賛成の関係者もいます。いわく、「いまの販社のスタンスを考えればノーロードは当然の条件です。これまで老人ばかりを相手にしてきた証券会社も、あと20年もすれば投信を保有している顧客はすべて死んでいなくなってしまいます。若年層の開拓を怠ってきたツケが回ります。いま、投信を買っている人はたった500万人しかいないのです。そこで回転売買で明日の利益を確保するより、20年先の利益を考えるべきでしょう」。
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