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日銀出口政策の最終形

日銀の国債買取額が漸減している。これはイールドカーブコントロール政策の成功の証と言えるだろう。残るはゼロ金利を支持している期間をどうスライドしていくか、そして3年を切って短期化し、1年に近づいたときにどういう政策の姿とするか。物価上昇率は1%を超えてくるのは見えているため、いまの残存10年をゼロ金利とするのは無理がある。どうしても長期金利政策目標を短期化せざるをえないだろう。そして、マイナスの短期金利もゼロへと浮上したときに、今次の黒田緩和は終わりを迎える。しかし、そのあとの長期金利体系はどうなるのか、日銀の財務についてどう考えるのか。

◎黒田バズーカの事実上の終焉

 

 日銀の金融政策の帰結がほぼ見えてきました。国債の非市場化が進み、日銀が目的とするイールドカーブコントロールの完成が来年にも達成されます。現在の政策金利△0.1%と残存10年長期金利0%の2点支持方式は、国債流通市場の枯渇に伴い、10年物が払底し、より短期の残存期間、たとえば5年が指標となります。そして5年が枯渇すれば3年、そして1年と短期化していきます。これによって、国債流通市場=発行市場の規制金利が完成します。市場に売りがでれば日銀はすべて拾っていくでしょう。しかし、国債購入額は漸減していくことになります。ある日銀の幹部は国債購入額ゼロが、イールドカーブコントロールの終着地点だと説明してくれました。年間80兆円もあった追加的国債購入額は40兆円から50兆円に減ってきました。突発的な売りにたいして日銀が買い向かうことがあるので、まったくゼロになるとは考えられませんが、それが来年のどこかの時点で数兆円程度の規模、あるいは数千億円になるかもしれませんが、事実上、黒田バズーカが終焉します。
 国債は償還期限がありますので、その減少分も補てんするように購入するので、日銀保有国債の残高は減りません。膨れ上がった保有国債は半永久的に凍結です。市場に売却するようなことはしないでしょう。別の日銀のある幹部もオフレコとしながらも、凍結は当然と説明してくれました。
 国債を非市場化した後、残る問題は短期の政策金利をどうするかです。それは物価次第ということになります。物価が1%を超えてきたときに短期金利を△0.1%でコントロールすることが可能かどうかです。外貨預金・投信への資金流出の加速も加わり、民間金融機関が日銀当座預金に△0.1%で預ける必要がなくなるはずです。そうなれば、政策金利は0%に復帰します。ここで日銀の金融政策は金利政策へと完全復帰します。
 黒田バズーカの本質は財政政策です。それがさらに拡張するかどうかは、今後の予算編成、国債発行計画に依存します。国債が増発されれば、国債をそのまま購入するでしょう。そうしなければ、特定の期限の国債金利が跳ね上がるはずです。日銀は全体の長期金利体系を維持するためにピッキングするはずです。したがって、日銀の資産は国債発行額に比例して膨張することになります。

 

◎国債の存在しない長期金利体系が出来上がる

 

 ここで気になるのは、国債が消えた長期金利市場の金利がどうなるかという点と非国債長期流通市場の金利が乖離していたときの日銀の財務です。
 国債が存在しない長期金利市場で指標となるものは何でしょうか。国債の発行が始まった昭和41年1月債(7年物)の応募者利回りは6.795%です。このときの公定歩合は5.475%です。銀行の長期プライムレートが公表されたのが、昭和41年1月ですが、8.4%となっています。国債の発行が始まったから長期プライムレートが公表されるようになったわけです。では、なぜ、国債(当時は7年物しかありません)の金利水準がこの水準できまったのかということですが、市場実勢というものがあったからにほかなりません。
 再びある日銀幹部に聞きました。国債流通金利が実勢から乖離し、つかいものにならないときは、長期金利をどう決めればいいのかと。彼に応えはシンプルでした。「発行体の信用に基づき発行金利を決めればいい」と。そうなので、国債が消えてしまえば、社債市場で長期金利を決めればいいのです。現に国債が市場に表れる前にも市場実勢は存在していたからです。現在の長期プライムレートは1%です。これが実勢を反映したものか、はなはだ疑わしく、まともに使われている節はありません。今後、様々な発行体の発行条件が示されることでしょう。そうした金利を反映して国債によらない新しい長期金利体系・プライプレートができることでしょう。
 民間の長期金利が国債とは別のところで決まり始めた時に、しかも物価が上昇しているとききに財政の都合で人為的に抑圧した金利の国債の価格はどのように決められるのでしょうか。国債が完全に分離されていると制度的(つまり法的)に定まっていれば、平たく言えば、国債金利は政府と日銀の貸借金利とすれば、その価格は市場から切り離され、価格と付ける意味を失います(別の表現でいいますと、完全御用金化です)。もう一度、書きますが、借り入れとしてしまえば、時価評価がいくらであっても、評価損などという局面、会計は存在しません。つまり日銀の赤字問題も存在しないということになります。
 問題はそこまで国債を買い切ることができるか、あるいは制度的な担保、なんらかの法的手当をすることができるかということです。日銀と金融機関との取引に使用している担保は国債ですが、これも切り替えます。金がいいのか、不動産がいいのか、あるいは株でもつかうのか。こうしないといつまでたっても国債が流通市場に残ってしまうからです。市場から払拭するには、徹底した駆逐が必要です。よく生命保険会社経営に影響がでるという批判があります。これはまったくのナンセンスです。国債を使わないで自らのALMを構築すればいいのであって、国債に依存しているから国債を発行せよという理屈は存在しません。長期の資産が欲しいのなら、ほかにもいくらでも資産は転がっています。
 仮の話を書きました。法的手当ができるとか、強引に市場を空にすると。正直言って、できる可能性があるのは、法的手当かと考えています。
 一度、国債が存在しない市場を前提に金利を考えてみてください。