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日銀のCPI2%目標と為替相場への言及

なぜ、日銀の金融政策は消費者物価(CPI)目標を2%としたのか。2013年4月の量的質的緩和(QQE)の導入

以降、その理由説明は、微妙に変化している。とくに2017年9月の黒田総裁の大阪における講演は、禁句とも

いうべき「為替」について言及している。総裁の油断なのか、あるいは分かりやすさのためか、一線を超え

た感がある。

◎2017年9月25日-大阪経済4団体共催懇談会黒田総裁挨拶

 

   なぜ、日銀はCPI2%達成を金融政策の目標として決めたのでしょうか。デフレ脱却にはこの水準ほどの高さが必要だという意気込みはよくわかります。しかし、2%という水準は80年代バブル時のとき以来の高い水準です。2013年の4月のQQE決定のとき、思い切った水準だと思った記憶があります。日銀は金融政策をその後も少しずつ変更していくわけですが、なぜ2%目標なのかということについて、次第に丁寧に説明するようになっています。
 直近の黒田総裁の講演・挨拶で注目したのは、2017年9月25日の大阪経済4団体共催懇談会での挨拶です。従来から繰り返してきた①統計上のバイアス、②将来の政策対応力の確保(のりしろの確保)、③グローバル・スタンダードの3つの理由について丁寧に説明しております。①と②の説明はここで省きますが、注目は③についての説明のなかで、黒田総裁はこう語っています。
  「現在、主要国の中央銀行はいずれも、2%程度の物価上昇率を目指して金融政策運営を行っています。こうしたもとで、わが国も2%を目指して政策運営を行うことは、長い目でみた為替相場の安定にもつながると思われます。為替相場は、短期的には様々な要因で変動しますが、長期的なトレンドは、内外の物価上昇率の格差を反映すると考えられています。自国と諸外国の物価上昇率が同程度の水準で安定的に推移すれば、長い目でみて、結果的に為替の安定につながっていくことになります。」
 グローバル・スタンダードについては、QQEの直後からこう説明してきました。「1990年代から最近にかけての先進国の実績をみると、2%程度のインフレ率を維持している国の経済が、経済成長率が高く失業率は低いという、良好なパフォーマンスを示していることが挙げられます。」(2013年10月18日。岩田副総裁―中央大学経済研究所創立50周年記念公開講演会)。また、「将来、2%程度の物価上昇が安定的に実現され、名目金利もそれを反映してある程度高い水準で形成されるようになれば、物価の下落や景気悪化に際し、利下げによって機動的に対応する余地も高まります。海外でも、同様の理由から、インフレ目標を2%程度に設定している国が多く、2%がグローバル・スタンダードになっているのです。」(2013年12月25日。黒田総裁-日本経済団体連合会審議員会における講演)。
 その後、さらに説明が複雑、丁寧になっていくのですが、大阪の挨拶では、ついに禁句というべき為替に言及し、「為替の安定につながる」としました。これまで一切、こうしたロジックは公式には発言していません。市場関係者もグローバル・スタンダードと総裁や副総裁が語った時には、その意図として為替の匂いを感じたわけですが、メディアがその確認を求めると「為替操作ではなく、あくまで国内の金融市場コントロールのため」という理由で為替という言葉はまったく総裁の口からは出てきませんでした。市場は阿吽の呼吸で理解していたと思います。
 為替の安定とは言いえて妙です。円安とも円高とも言ってはいませんが、あるときは円安を意識していたのは間違いないことだと思われます。金融政策でありながら、為替政策であると大阪で語ったのです。
 なぜ、大阪で為替という言葉を黒田総裁は使ったのでしょうか。理由は三つあります。一つは油断。つい口が滑ったということです。もう一つは理解されやすく説明するためという理由です。金融政策を理解することは一般の人々にはなかなか厳しいものがあります。わかりやすく説明しようという総裁の気配りだったのかもしれません。そして、もしかすると、今後は「為替安定を図るぞ」と宣言したのかもしれません。これが第3の理由というべき隠された意図かもしれません。(いずれも小生の解釈に過ぎません。)
 ただ、理由はともあれ、為替相場について口にしたという事実は重いと思います。かつて日銀が当座預金残高を目標とする量的緩和政策を継続していたとき、事実として当座預金残高が増加すると金融緩和=円安に動きました。しかし、ときの総裁である福井氏は一切、為替という言葉を使いませんでした。非常に神経を使っていたと思われます。論理的にはどう考えても金融緩和とは思えないオペレーションですが、市場は日銀の意図を感じて緩和と受け止めていたのです。だからシンプルに為替は動きました。忖度したのです。

 

◎リフレ派を断罪したイールドカーブコントロール

 

 なお、2%は間接的に黒田総裁続投の根拠となります。当初、2年間でCPI2%達成と豪語したわけですから、2%に達していなければ、「約束を守るまで総裁を全うすべき」と言われても仕方のない状況です。とくにオーバーシュートコミットメントまで構築していますので、実現するまで黒田総裁も身を引くに引けないかと推察されます。最近、黒田総裁はQQEについて理論的な根拠があるとの講演など総括的な話もされているので、店じまい、任期全うのシグナルかと感じましたが、2%の壁を超えるまでは自尊心にも傷がつくのではないかと思います。
 QQEからほぼ5年近くとなり、目標が達成できないことで、当初のリフレ派の理論は破綻したと実証されました。黒田総裁はリフレ派ではないので、理論の破綻を気にしているわけではないでしょう。むしろ、量的緩和政策を放棄して金利政策に移行したわけですから、自ら破綻を宣言したといっていいでしょう。リフレ派を断罪したも同然です。今後、総裁は一切、リフレ派といわれる方々の意見を取り入れるつもりはないはずです。
 イールドカーブコントロールの評価も定まっていないので、何とも言えないのですが、別のアプローチを模索しているような気がします。世界を見渡して、長期金利を完全にコントロールしているのは、日本だけです。中国もアメリカも当局はコントルールできてはいません。となると長期金利コントロールによる為替コントロールという手法を強化していくのではないかという感触があります。通貨の価値を示す為替相場こそが主戦場と考えているのではないかと。