財務省は7月27日、定例の人事異動を行った。佐川事件・決裁文書改ざん問題を受けて、関与した職員を全てラインから外すか、あるいは留任という人事となった。セクハラ疑惑で福田次官が辞任し、人事権者である次官が不在という混乱のなかで、事務次官人事は新聞報道が錯そう、迷走したのも珍しいことだった。佐川・セクハラがキーワードとなった今年の想定外の人事について考えてみたい。
◎異例の藤井国税庁長官人事
幹部人事の一覧は下記の通りです。セクハラ疑惑で辞任した福田次官の後継者人事は、各新聞社がバラバラの報道を流しました。人事情報は、大臣なり、官邸なり人事権をもつ関係者から裏を取って記事にします。各社とも有力な筋から裏を取ったはずです。しかし、星野次官説(6月2日・朝日、毎日、読売)、浅川次官説(6月10日・日経)が流れ、最後に岡本主計局長が昇格するという記事を各紙が掲載し、それが真実となりました。おそらく、それぞれの次官説報道に根拠があったと思います。ということは、この3人の人事は時間の経過とともに、情報を流した筋が考え方を変えたからにほかなりません。つまり、麻生大臣が人事案を替えたということです。菅官房長官が替えた可能性もあります。
人事案の迷走は、本来の第一義的な人事権者である次官が不在だったことが大きく影響したものと思われます。財務省のなかで人事決定権を誰ももっていないなかで、麻生大臣がころころと替えてしまったというのが真実だったのではないでしょうか。
岡本次官は、佐川氏が理財局長のときに官房長という職にあり、国会対応と文書管理責任(文書厳重注意)という内規による責任を取りました。しかし、国家公務員法上の懲戒処分でありませんので、本来ならまったく人事には影響しないものです。もともとの大本命ですので、落ち着くべきところに落ち着いたということでしょう。岡本次官は官邸とのパイプが経産省にほぼ独占されるなかで、「数少ない信頼を得ている人物」(霞が関)です。
岡本次官が決まれば、佐川事件関係者を除き、ほぼ常識的な人事となるはずでした。しかし、瞠目すべきは、国税庁長官に藤井国税庁次長(62年)が就任したことです。次官候補として名前の挙がった星野主税局長(58年)がいるにも拘わらず、国税庁次長から長官に抜擢したのは、極めて異例です。「麻生大臣の強い推薦」ということです。
気になるのは星野主税局長を留任させてまで、抜擢する理由があったのかということです。星野氏にどのような事情があるのか、定かではありませんが(女性問題があるとの週刊誌情報が流れていますが)、このままでは、星野氏は来年退官ということになります。情報の内容がそれほど深刻ならばですが。来年の国税庁長官には今回、首相秘書官から戻って関税局長となった中江氏が昇格するとみられています。
藤井氏は佐川前国税庁長官の「長官心得」=代行として活躍したことと、これまでも麻生大臣との接点も多く、「麻生大臣の指名で長官になった」(財務省関係者)とのことです。しかし、麻生大臣が藤井氏の年次を知っていたのかはよくわかりません。来年、藤井氏は1年で長官を退官し、副官房長官補に回る可能性があります。現在、財務省からは副官房長官補に古谷氏が行っていますが、丸5年になります。長すぎる感じです。一時は退官との話も流れていましたが、諸々の事情で先延ばしとなっています。次は国税庁長官経験者としてつながると思われます。
ここで福田前事務次官のセクハラ疑惑について、小生の考え方を書いておきたいと思います。まず、セクハラはないと名誉棄損で訴訟を起こすべきだと考えます。テレビ朝日の女性記者の全録音データの開示を求めて、そのうえでセクハラがあったのかどうか、訴訟で争うべきだと思います。新潮社に渡った音声データは加工されていました。それだけでは、事実が正確ではありません。彼女が福田次官の言葉を誘引していたならば、セクハラとは言えません。確かに福田次官が下品な言葉で話したという事実は残っていますが、前後の脈絡がない以上、それが恐怖感を与えるものなのかも判断できません。一方的な言い分に過ぎません。
福田次官がセクハラ男ならば、正々堂々とすべての音声データをテレビ朝日で公表すべきです。いまのままでは「セクハラ疑惑」のままとなります。仮に下品な言葉を女性に話したことだけで、セクハラになるのか、疑問です。わざわざ、音声を加工してまで、他社の週刊誌にネタを売るなんて、これまた最低の行為。下品な言葉と下品なあるまじきメディアとしての行為は、どっちもどっちです。これはセクハラとは別次元の話です。
◎浅川説が消えた理由も判然とせず
星野主税局長が次官にならなかったことにある一種の背景があるのかもしれませんが、それにしてもおかしいのは、星野次官=飯塚国税庁長官というペアで人事構想が流れていたのですから、片方の飯塚氏の処遇があってもいいはずですが、飯塚氏は関税局長としてなんと勇退です。なぜ長官候補者が勇退なのでしょうか。この星野説は、いかに全体の構想がおかしかったかを証明しているようなものです。繰り返しますが、各主要メディアはこれを報じていました。間違いなく飯塚氏の昇格の処遇が考えられていたことになります。不思議な構想でした。
浅川(56年)説についても、事後談として少し触れたいと思います。福田次官の辞任の直後から浅川氏の起用という噂が流れていました。岡本主計局長(58年)よりも年次が上という条件なら、「浅川しかいない」という声がありました。このとき、森金融庁長官(55年)も条件が合いますので、次官にという噂もありました。
しかし、事務次官の仕事は“大主計局長”ですから、無理筋です。麻生大臣も一時は本気で次官起用を考えたものと思われます。だから日経新聞がスクープしたのでしょう。しかし、その後、何があったのか、官邸(あるいは内閣人事局)からの横やりなのか、その経緯は定かではありませんが、起用説は消えてしまいました。ある筋から聞いたのですが、杉田人事局長の反対があったとのことです。
加えて、新潟知事選で自民党が勝利したことで岡本次官で世論を押せると判断したという見方もありますが、知事選ごときで決まるものなのか、これも眉唾でしょう。むしろ浅川説をとって、本命を外すことが弱腰とみられることを麻生大臣が嫌ったのではないでしょうか。麻生大臣は財務省の若い職員に「悪くなれ、良く思われるようになるな。財務省の仕事は嫌われ役なのだから」と話していました。強気で今回は出たと思います。
もっとも、浅川財務官が留任するという理由もありました。日本は来年、G20の議長国となります。議長国は前年から準備を進めます。米中の貿易摩擦もあり、テーマは多様です。G20としてどのテーマを選び、統一した結論を出すのか、その根回しは大変です。麻生大臣もこの点を意識したことと思われます。しかし、本当に財務官を留任させなければならないほどのことなのか。浅川氏はすでに3年間も財務官です。
浅川氏の留任、藤井氏の抜擢などをみると、麻生大臣の「好み」が反映されています。麻生大臣も財務大臣としての任期が長くなり、組織のなかでの「えり好み」が出るようになったのではないでしょうか。安倍総裁の3選の可能性が高まっています。続投すれば、間違いなく麻生大臣も続投でしょう。来年は麻生大臣の好みがさらに色濃くなるのではないかと。
◎来年度の人事はどうなるか
来年度の人事については、多くの関係者の見方をもとに下記の表のように想定しています。次官は太田氏で確定です。太田氏の活躍といえば、森友学園問題での理財局長としての国会答弁が目立ちますが、実は財務省内で高く評価されているのは、昨年、幼児教育の無償化(2019年10月から実施)を誘導したことです。まだ、メニューが確定していませんが、少なくとも年間1.4兆円の財政負担になると見込まれています。この政策を同じタイミングの2019年10月に引き上げられる消費税増税とセットしたことです。消費税増税は総額年間5.6兆円です。先に増税分の使い道を決めてしまえば、増税実施は絶対になるわけです。勿論、財政規律を無視した赤字国債を大量に発行するという手段がありますから、先行きはまだ不透明ですが、教育の無償化という流れが自民党内で沸き起こってきたタイミングをとらえたセンスの良さが光っているというわけです。
ほかの幹部人事の予想の根拠はさておき、森友学園関連の文書改ざんによるペナルティを受けた方々の人事はなんと財務総合研究所に集約するという結果になりました。美並、中尾、中村の各氏です。ここでその是非は書きませんが、人事はいかにも異様です。個人的には海外ということもあり得たと思いますが、まだ、事件の事後処理が続くとみているのかもしれません。
ここで人事に関係のありそうな環境についてひとつ付言しておきたいと思います。それは天皇即位(来年5月1日)にともなう恩赦があるということです。恩赦の対象には行政上のペナルティについても、名誉回復という措置が取られる可能性があります。重い刑事罰の減刑は無理でしょうが、ある程度の軽度のペナルティには恩恵があるとみています。救済される人もいるはずです。勿論、佐川問題関係者が全員ということを言っているわけではありません。
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