金融庁は10月5日、スルガ銀行に対して、新規の投資用不動産融資の半年間の停止命令とともに、経営者責任の追及、②コンプライアンス体制の確立、③反社会的勢力排除とマネロン対策の管理強化、④融資審査態勢の強化確立、⑤創業家・岡野氏のファミリー企業との取引の適切管理強化、⑥シェアハウス向け融資についての融資条件のリスケなど債務者への適切な対応を求める命令を発出した。行政処分の内容は極めて厳しいもので、スルガ銀行の経営存続にも影響しかねない内容となった。
処分には、シェアハウス関連融資問題に加え、③と⑤についての事実認定と処分が加わったことがポイント。銀行のさらなる信用力低下は避けられず、経営の縮小均衡は必至であり、場合によって胃は再編につながる可能性も出てきた。
◎懲役6か月の実刑判決に匹敵
グーグルで「スルガ銀行」を検索すると地銀としては異例の1000万件以上のヒットがあります。すでに食傷気味のテーマですが、今回、発出された金融庁の行政処分の注目点とレベル感を並べて整理しておきます。
(1) 行政処分は左記のリード部分に書き並べたように、投資不動産融資の新規業務を半年間停止するほか6点の内容が盛り込まれました。新規業務の停止は、感覚的には懲役6か月の実刑というレベルです。融資停止だけでなく、融資を担当していた役職員だけでなく全職員が、ほかの一切の業務にも携わることなく、職場を放棄して一定期間(具体的には示されてはいません)ただひたすら法令順守・コンプラ研修を受けるという処分が含まれます。若干、拷問に近い感じです。なにもしない禁固6か月の刑とは違うのです。
金融庁の行政処分には勿論、免許停止、廃業、役員解任などの厳しい処分もありますが、現に営業を続け、生きている銀行に対する処分としては、最高レベルの処分といえると思います。地銀でこれほどの停止命令を受けた銀行はありません。
(2) 第2は、役員のさらなる経営責任追及の厳しさがうかがわれるということです。先に第三者委員会の調査報告書はシェアハウス問題に限定したものでしたが、今回の処分対象はこのテーマに加え、①ファミリー企業への不正融資、②マネロン・反社対応の不備が追加されています。第三者委員会が示した責任の所在に加え、これら金融庁が立ち入り検査で判明した違法事実についての責任が加わることになります。当然、第三者委員会の示した各役員の責任レベルを上回る責任追及となるはずです。
第三者委員会のメンバーは、中村・角田・松本法律事務所の弁護士が総動員されました。パートナーである中村直人弁護士は、多くの大企業の不祥事の際に設置される第三者委員会の委員長を務めて一躍有名となった久保利英明弁護士と一緒に日比谷パーク法律事務所を開いた方です。この筋からの推薦で第三者委員会を引き受けたものとみられます。
しかし、今回、責任追及を行うメンバー(取締役等責任調査委員会)の顔ぶれをみますと、いわば当局側シンパの弁護士が並んでいます。委員長の小澤徹夫弁護士は内閣府「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン研究会」の委員、片岡義広弁護士は金融庁のアドバイザー、行方洋一弁護士は、金融庁に勤務したこともあるコンプライアンスの専門家、そして、野下えみ弁護士は、検事出身の弁護士です。
つまり、当局の息のかかった方々で構成されており、久保弁護士流の「ちょっとは企業の事情も斟酌する」という裁量的な判断は排除されるため、結果は厳しいものとなることが想定されます。とりわけ焦点となるのは、岡野元CEOへの調査です。第三者委員会は、CEOは関与していないという結論をだしましたが、ファミリー企業向け融資は、完全にクロです。それをどう判断するか。常識的には民事による損害賠償のほかに背任・特別の告発を行うはずです。
(3)第3は、銀行法24条(報告命令)違反をほのめかしている点です。金融庁が求めた報告に虚偽があったと、処分の中で何か所か指摘されています。まだ銀行側の内部調査は終わっていません。同様の虚偽報告が出てくると、大げさに言えば検査忌避につながるため、追加的に処分があるかもしれません。
(4) 第4は、シェアハウス融資問題において銀行側の悪意・故意を認定した点が挙げられます。まだ、個々の融資の実態が公表されていないにも拘わらず、かつ、集団訴訟が起こされている段階で、銀行の不正を認めているのは異例の先取的な判断です。融資条件の見直しまで踏み込んでいるのは、金融庁が世論を意識している証左といえます。非常に特殊な処分と感じました。
(5) 第5は、ファミリー企業への融資不正を明らかにした点です。すでに新聞で報じられていましたが、これほどの悪質とは思えませんでした。刑法の背任(あるいは特別背任)の可能性の根拠となります。(詳しくは処分を読んで頂きたく)
責任追及を行う取締役等責任調査委員会は、会社法、あるいは金商法を根拠とした善管注意義務違反などによる損害賠償が主たるテーマとなるとみられますが、背任となれば、当局の意を受けて告発手続きも視野に入ります。不正融資は民事だけにとどまらない可能性があります。
(6) 第6は、反社・マネロン対応の不備まで摘発したことです。記述された内容は極めて深刻です。ただし、銀行がなぜ、放置したのか、また金融庁がなぜ、これまで指摘できなかったのかという疑念が残ります。金融庁はこれらのテーマに対して極めて神経質ともいえる対応を求めてきました。みずほ銀行のマネロン事件であれだけの社会的な事件になりました。具体的な事実関係が明らかではないので、これ以上の広がりを抑え込もうという意図かと思われます。
ただし、今後、どこかのメディアでスクープされ、反社勢力の具体的な名前が出たりすれば再度、業務改善命令がでる可能性もあります。
◎業務改善命令の影響
これだけ厳しい指摘を受けてしまった以上、信用力の劣化は避けられません。その回復には、相当の時間がかかるでしょう。経営悪化の悪いシナリオはいくらでも描けます。また、金融再編のネタとして週刊誌が取り上げることは必至です。不動投資融資の実態とその将来性なども取り上げられるでしょう。
そうしたこととは別に、様々な事件の諸背景のなかから1点だけ指摘しておきたい点があります。それは店舗行政の自由化のなれの果てでもあるということです。自由化により、経済活動の活発な地域への店舗の移転、新設が自由化されました。
下記の地図は、日本総研の吉本澄司主席研究員が、2017年3月10日に発表したレポート「地元の経済状況と地域銀行の店舗展開の特徴」から引用したものです。地銀が「地元以外」に配置している店舗の分布を示したものです。
ピンク色でプロットした点が新規進出の場所です。いかに地銀が地元から首都圏と関西圏へと重点的に新設してきたかが、一目瞭然です。地銀は大都市部でヒートしたのです。ここで行政の是非を問うわけではありません。事実として店舗自由化のインパクトがなんと大きかったことかと今さらながらに感じた次第です。
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