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地銀再編の特例法立法記事は本当か?

日経新聞が3月5日付で「地銀やバス統合促す 新法で独禁法の例外」と報じた。これは未来投資会議の地域政策協議会で検討している地銀とバスの再編のテーマだが、この報道が正しければ、「特例法」か「独禁法のガイドライン改正」かという議論に決着がついたことを意味している。両方の中身は同じであっても、前者と後者とでは質的に異なる。誰が企業統合を認めるのかという手続きが違ってくるからだ。また、今回の議論で最大の焦点となっている「シェア概念」の撤廃について、何も触れていないことが気になる。議論膠着の打開を図るために、経産省・金融庁から意図的にリークされた可能性もある。

◎「シェア概念」を放棄することに

 

 地銀の統合再編認可の判断は当然のことながら、金融庁に責任があります。銀行業を免許し、監督しているからです。しかし、企業結合を含む独禁法を所管する公取はその上位機関であり、判断の最上位にあります。未来投資会議でこのテーマを取り上げたときに、誰が何を基準に再編を認めるかという難題が待ち構えていました。公取の判断を優先するのなら、「独禁法のガイドライン改正」、現場監督官庁の金融庁の判断、あるいは産業政策として判断するなら経産省が主管となって独禁法の例外規定を含む「特例法」を動かすとみられていました。

 

 難問ゆえに未来投資会議の下部組織である地域政策協議会は昨年12月に1回開催された後、2回目の開催のめどが立っていませんでした。その後、関係当局者による秘密会合によってドラフトを作るという作業が行われていました。会議を開けば、紛糾することが必至であるため、完全に関係者の了解済みとならない限り、この会議の開催ができない事態に陥っていました。1月と2月は休会です。3月に開催見込みで、上部会議の未来投資会議を4月に開催予定と関係者の方から聞きました。これは中身が決まっていたからではなく、6月の政府の成長戦略のペーパーに間に合わせるには、このスケジュールしかないという逆算の日程でした。もしかすると3月の地域政策協議会の開催も危うい状況でした。

 

 もし、日経新聞が報じたことが正しいのなら、公取が引き下がったことを意味します。そもそも独禁法のガイドライン改正の場合は、シェア概念が根幹にある本則の独禁法との平仄を合わせる必要があります。シェアの判断を留保することは、独禁法と矛盾した作業になりますので、難しいのではないかとみられていました。独占はだめだといいながら独占を認めるガイドラインをつくることは至難の業です。公取はこの作業を放棄したとみられます。その点、特例法ならば、独禁法を無視できます。したがって、独禁法の肝である「シェアの概念」が放棄された可能性が高いということです(この点、日経はまったく触れていません)。

 

 これは大きな意義を持ちます。地銀、バス会社に限らず、「高いシェア」がハードルとならないのなら、広く全日本で地域独占の課題は消滅することになります。公取がそこまで引き下がったのか、あるいは特定の条件を付けたのかはまだ不明です。しかし、明らかに公取は条件の協議に合意したことになります。人口減少により、自然に地域独占が生じる事態になっているわけですから、公取も納得したのでしょう。

 

 今後は監督官庁が了承した案件は、公取の事後承諾あるいは無承諾で進められることになります。なお、シェアの概念をフレキシブルにすることは、戦後に確立した独禁政策の大きな転換点になるかもしれません。

 

 この特例法は来年の通常国会にかけられます。しかし、法律が整備されたとしても金融再編が進むかどうかはまったくわかりません。現状、経営内容が芳しくない銀行同士が統合することは不合理です。経営の選択としても採用できません。したがって、法律施行によって即再編が進むと考えるのは早計です。これは「再編を進める」法律ではなく、「再編を抑制する制度の廃止」と考えるべきでしょう。

 

◎意図的なリークの可能性は排除できない

 

 記事を素直に読めば、以上の通りですが、もし、議論が煮詰まっておらず、それを打開するための意図的なリークだとしたら、金融庁、経産省と公取との対立が深刻だということを意味します。公取が主導権を渡さないということであれば、企業統合のハードルは依然として高くなります。まだ、事態ははっきりしていないと思われます。