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日銀の役員人事の基礎知識

日銀の金融政策の話題も、マイナス金利を別にすれば、ここ数年、ネタが希薄になってきた感がある。だからということではないが、ここでは閑話休題、日銀の役員人事の基礎知識を整理しておきたい。将来の金融政策を担う人事体制・布陣を予想してみた。

 

◎理事の任期と副総裁候補

 

 日銀の役員は、審議委員6人、総裁1人、副総裁2人、監事3人以内、理事6人以内と定められています。このうち審議委員と監事を除いた、総裁、副総裁、理事とその配下が執行部と総称されます。執行部は政策決定会合などに政策原案を提出するど実働部隊です。日銀の組織の基本なので、当たり前だろうと笑われるのを覚悟しつつ、とにかく、まず示しておきます。

 

 また、執行部役員の任期は、総裁・副総裁が5年、理事が4年となっています。黒田総裁と雨宮・若田部副総裁は昨年春、再任、新任(3月と4月)されたので、残る任期は2023年の春までです。

 

 次に、現在の理事の任期はというと下記の通りです。

前田栄治(昭和60年入行):2016年5月11日発令(任期2020年5月10日)

衛藤公洋(60年):2017年3月3日発令(任期:2021年3月2日)

吉岡伸泰(58年):2017年4月1日発令(任期:2021年3月31日)

内田眞一(61年):2018年4月2日発令(任期は2022年4月1日)

山田泰弘(62年):2018年5月9日発令(任期:2022年5月8日)

池田唯一(財務省57年):2018年8月21日発令(任期:2022年8月20日)

 

 理事はまれに再任されることがありますが、通常1期で退任します。となると、来年の5月に前田氏が退任、再来年の春に衛藤氏と吉岡氏が退任することになります。

 

 前田氏の後任が当面、人事の焦点。すでに62年の山田氏が理事になっているので、来年、関根敏隆金融研究所長や清水季子名古屋支店長がいる62年組からの昇格は考えにくいところです。となると63年組からの昇格が順当で、その筆頭は加藤毅企画局長との前評判が高くなっています。ほぼ確定と考えてよいでしょう。

 

 そのとき加藤氏が企画担当理事となるのか、内田国際担当理事が企画担当に横滑りするのか、担当の振り分けもひとつ注目されます。加藤氏が企画担当なら、黒田総裁、雨宮副総裁の任期を超えて2024年までの任期となりますので、副総裁候補となる可能性があります。これまでの日銀出身の副総裁は企画担当理事経験者からの昇格が多いからです。

 

 内田氏が企画担当に担当替えとなれば、やはり副総裁候補となりますが、内田氏の任期は上記のように2022年まで。そのとき、総裁・副総裁人事はありません。となると、内田氏を企画担当理事として理事再任するという人事を行えば、企画担当理事として副総裁候補となるでしょう。

 

 ただし、現職の企画担当理事からの副総裁というコースが一般的ですが、国際担当理事からの昇格(中曾副総裁)もありますから、あくまで加藤・内田氏の処遇は前例を参照にしただけのことです。場合によっては、内田氏が国際担当理事から副総裁になるかもしれません。

 

 また、日銀OBからの副総裁人事もありますので、加藤、内田氏の二人に絞り込まれているわけでもありません。たとえば白川前総裁なども一度、企画担当理事で退任したあと京都大学にいき、そして戻って副総裁になったという経緯があります。外部にも適材と判断される方もいらっしゃると思います。しかも、かならずしもメインの企画畑出身者ではない方の可能性もあります。有力候補者はいくらでも挙げられます。

 

 また、以上の予想は、あくまで「仮に副総裁を日銀プロパーから選んだ場合」ということが前提です。そうでない場合も十分にあり得ます。とくに総裁が日銀出身者となった場合は、副総裁のポストもとれるかどうか、「五分五分以下」という感じではないでしょうか。

 

 なお、加藤企画局長の後任は、加藤氏より年次を下げた63年組以降からの昇格で、かつ企画畑からの人事だとすれば、今年、調査統計局長になった神山一成氏(平2)か、高松支店長から国際局審議役兼企画審議役に転じた正木一博氏(平3)。ほかにも候補者はありそうですが、まずは、この二人が軸でしょう。

 

◎56年組の轍を踏まないために

 

 さて、理事人事の続きです。再来年の2021年の理事交代のときに二人、2022年に一人の合計3人が退任します。加藤氏が理事になるとすれば、企画局長と同様に63年組より下の年次からの選抜になります。役員になる前は当然局長クラスからの選抜ですから、現在の体制から選抜するとなると、どうしても主要局長を占めている63年組に偏ってしまいます。高口博英金融機構局長、清水誠一金融市場局長、坂本哲也総務人事局長が有力候補になります。

 

 日銀には「56年問題」という人事問題がありました。56年組から櫛田誠希、武田知久、田中  洋樹、門間一夫氏の4人の理事を輩出したため、あとの年次への理事の配分が少なくなってしまったのです。6人の理事のうち、一人は財務省出身者が占めますので、日銀は5人の枠しかありません。4年間の任期ですから、ほぼ1年に一人でるかどうかという狭き門なのです。それを同期4人が占めたのです。

 

 63年組には優秀な人材が豊富です。しかし、そのまま昇格してしまうと、56年問題が再燃します。ということは、来年、再来年の人事で局長クラスの人事異動を大幅に行い、理事コースとなる局長ポストを入れ替えていくしかありません。この人事構想、すべて雨宮副総裁のさじ加減です。

 

 残る役員人事は総裁人事ですが、これは誰が考えてもわかるはずはありません。二階幹事長が発言しているように安倍総理の自民党総裁4選となれば、黒田総裁の再続投すら考えられます。総裁人事は、どのみち不透明ですので、無責任に書いてしまえば、巷間、噂になっている候補者を挙げると、日銀OBならば中曾宏(53年)氏、現役なら雨宮正佳(54年)副総裁の昇格、そして財務省なら浅川前財務官といった方の名前が出ています。学者から若田部副総裁の昇格もあるかもしれません。それぞれ推薦する根拠があります。ま、皆さまがイメージされる方々です。

 

 浅川氏(次期アジ銀総裁)の名前を関係者から聞いたとき、なるほどと思いました。黒田総裁が再選される前までは、てっきり本命は中曾宏氏とみていました。しかし、米中対立、ポピュリズムの台頭による分断が進む世界で、政治的に泳ぐ力量をもつ方でないと中央銀行の総裁は務まらないのではないかと思います。国際的な知名度において中曾氏は圧倒的なネームをもっていますが、浅川氏も圧倒的です。ただ、中国を意識したときに、アジ銀総裁は大きな価値をもちます。

(以上、日銀人事を話題にするときの大雑把な基礎知識としていただければ幸甚です)

 

(追補)2020年6月28日
 このブログを書いた後、日銀関係者からあるサジェスチョンを頂きました。昭和63年入行組から多くの理事を出してもいいのではないかという意見です。理事という役員ポストを分散させることによって、各年次のインセンティブを維持しようという甘い考え方は古いというのです。そのようにみれば、局長人事でも年次に偏りがすでに生じています。役員人事はそれがベースになりますので、同期から多くの理事を輩出することになります。

 

 翻って、財務省人事でも同様の現象が起こっています。次官、主要局長を同期で回すということが非常識ではなくなっています。同期に一人を次官にするという古式は廃れてしまいました。ならば、日銀も同様です。あるいは日本全体を見ても同じことが起こっているように見えます。当然、金融界のトップ人事もそうでした。

 

 といういうことで、このブログは「基礎知識」になっておりません。古いセンスの方からのアドバイスに従ってしまったようです。人事がありましたら、再度、コメントさせていただきます。

 


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