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改正金融機能強化法とリファイナンス狙いの銀行

金融機能強化法が改正、施行され、経営者責任を問われず、また収益目標を約束しなくとも公的資金が借りられることとなった。菅総理の地銀再編発言もあり、先の地域銀行の再編についての特例法とこの改正金融機能強化法により地銀の統合が進むという話題が盛り上がっている。しかし、関係者の話を聞く限り、再編の動きは聞こえてこない。昨年、発動した早期警戒制度による行政処分を一時停止し、むしろ、改正金融機能強化法による公的資金の返済資金のリファイナンスを優先させようとしている金融庁の方針が注目される。

◎菅総理の誤解?

 

 菅総理が9月2日の自民党総裁選の出馬表明会見で「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と発言し、さらにその翌日、「再編も一つの選択肢になる」と再編に唐突に言及したことには、いささか驚きました。およそ、一般の国民が関心をもつ政策テーマなのかどうか疑問だからです。おそらく、銀行関係者を除けば、それって何の意味があるの?自分の生活に関係あるの?という反応だったと思います。

 

 菅総理は誰かに地方創生と地銀再編がリンクすると囁かれた(アドバイスを受けた)ものと思われます。結論から言えば、リンクなんかしません。おそらく誤解です。地銀再編によって、地銀の経営力が1+1=2以上になると誤解したのだと思います。しかし、規模の利益を追った昔はともかく、いまの再編は、1+1=<2が現実です。縮小均衡の手段といっても差し支えありません。菅総理は経営体力、つまり資本バッファが厚くなれば地域の中小企業のリスクを取れると考られたのだと思います。

 

 残念ながらいまの再編はそのような夢物語に結びつきません。現実には、たとえば取引先企業の選別が強化されます(再編する際に互いに資産をデューデリしますので)。金融支援の打ち切りが目に見えています。廃業や倒産も加速するはずです。本当に菅総理がこうした新陳代謝を促進するような新自由主義的な発想を持たれているなら、確信犯ということになります(多分、違います)。

 

 菅総理発言は公的資金にリンクする話題です。霞ヶ関、本石町の関係者からその発言の真意についてどう見ているのかと伺った結果を総括すると以上となります。いろいろな見方が出ました。総理と昵懇の大樹総研筋からのアドバイスという見方もありました。単に内閣官房の側近たちや金融庁幹部からのレクを自身で解釈したという見方もありました。ただ、共通していたのは誤解ではないかという解釈でした。(何か大構想を練られているのであれば失礼致します。一応、イクスキューズさせて頂きます)

 

◎狙いはリファイナンス

 

 さて、本題に入ります。今年の通常国会で成立した改正金融機能強化法はどう使われるかということです。

 

 新型コロナ特例という条文が追加され、これに該当する銀行(まあ、ほとんどの銀行が含まれると思いますが)が公的資金を入れる際に、従来、厳しく求められていた収益・効率性目標や役員の責任追及を求めないばかりか、資金注入期間も無制限、公的資金の配当率を引き下げるなど、注入条件を思いっきり緩和しました。モラルハザードの懸念があります。(従来の厳しい条件によって、優秀な頭取が否応もなく辞任に追い込まれて来ました。小生の知人で辞任された方は何人もいらっしゃいます。だから条件緩和は、いいことでもありますので、全面的に否定するものではありません)

 

 これだけ公的資金が入り易くなれば、公的資金を申請する銀行が増える、あるいは再編を伴う公的資金の申請が増えると想像されますが、どうやら活用を検討している銀行は、既存の公的資金の入れ替え、リファイナンスのようです。8行からの打診があると仄聞しております。

 

 最初に旧金融機能強化法による公的資金が入ったのが2009年のことです。このときの注入条件は返済期間が15年間となっています。つまり、2024年3月までに返済しなくてはなりません。まだ、時間があるのではないかと思われるかもしれません。

 

 しかし、公的資金を入れた銀行は、3年ごとに経営強化計画を当局に提出する義務を負っています。2024年3月を最終期限とする経営強化計画の始期は、来年の2021年3月です。この計画のなかで返済が実現可能であるという合理性のある説明が求められます。

 

 具体的な銀行名は挙げませんが、2024年の最終期に突如として返済原資の準備金が積み上がる計画書を提出している銀行があります。しかも、返済は可能としながらも、返済すれば自己資本比率が激減するケースもあります。

 

 いくつかの銀行では「本計画期間中での公的資金返済に向けた出口戦略を明確にするため、新たな資本調達についても検討を開始しております。」「資本政策を含めた幅広い検討に着手する必要があると認識しております。」と資本政策の必要性があると認めているのです。こうした銀行は公的資金を借り換えなければ、最低自己資本比率を維持することができません。

 

 借り換えは一度、返済したうえで新規に公的資金を受けるという形をとります。資金は新しい優先株式(あるいは普通株式)なので、定款変更が必要です。変更するには、株主総会の議決が必要なので、臨時あるいは定期の総会開催で議決しなくてはなりません。2021年6月の定期総会では、計画書の提出期限を超えてしまいます。となると来年の3月末までに臨時株主総会を開催しなくてはなりません。忙しいのです。

 

◎経営強化計画の骨抜き

 

 まあ、借り換えてもいいのではないかと個人的には思いますが、その銀行が今回、新規に設けられたコロナ特例で申請してきたときに、従前の条件と天と地の違いが生じてきます。これまで12年間に渡り、収益と効率化の指標を公表し、役員の責任を多少なりとも感じつつ経営してきた銀行が突如として、一切の制約なしに公的資金を入れ替えることに違和感があります。大なり小なりコロナの影響を受けない地域はないので、おそらく改正金融機能強化法の特例を使うのは目に見えています。多分、本則で借りる銀行はないでしょう。

 

 100歩譲って、仕方なしとなっても、疑問が残ります。3年ごとの経営強化計画の提出義務は残りますので、計画は公表されます。しかし、その中には、前述のように目標となる数字が一切ありません。実質、銀行が毎年発行しているディスクロージャーと変わらないのではないかと思います。計画書に意味があるのでしょうか。

 

 リファイナンスの需要に対し、応えることに意義はあるとして、仮に新規の申請があった場合、当初からノーペナルティで、期限のない公的資金を簡単に入れてよいのかどうかという懸念です。コロナ特例の資金は、いわば出口のない公的資金です。また、SBIグループ地銀が大挙して申請する可能性もあります。拒否できるのでしょうか。なにしろ、経営破たんすれば、税金の投入となるわけですから、公的資金に注入基準が見えないことには一種のもどかしさが残ります。

 

 金融庁は昨年、早期警戒制度に基づくモニタリングを開始しました。スクリーニングを経て、今年の6月までに第2段階の抽出を終えています。最後の第3段階では、行政処分するか、否かということになります。それがいまだに発動されていません。もしかするとこの行政処分と平仄を合わせ“戦略的”に活用しようとしているのかもしれません。行政処分先への注入ならば理屈が成り立ちます。しかし、処分先でない銀行から申請された場合、どうするのでしょうか。